あず沙の映画レビュー・ノート

しばらくお休みしておりましたが、そろそろ再開いたしました
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彼が二度愛したS
2007 アメリカ 洋画 エロス
作品のイメージ:萌え、ドキドキ・ハラハラ、おしゃれ
出演:ヒュー・ジャックマン、ユアン・マクレガー、ミシェル・ウィリアムズ、リサ・ゲイ・ハミルトン

辛口のレビューにならざるを得ないサスペンス・ドラマ。舞台はマンハッタン。クライアントの事務所で独り黙々と仕事をする会計士のジョナサン(ユアン・マクレガー)は、ある日弁護士のワイアット(ヒュー・ジャックマン)に出会い、お互いの携帯電話を取り違えて持って帰ってしまう。そのことから、ジョナサンは一夜限りの情事を楽しむエグゼクティブ限定の会員制秘密クラブの存在を知り、甘美でスリリングな夜の世界にはまってゆくのだった。そして、以前に一度地下鉄の構内で見かけたことのある、名前が“S”で始まる美しい女性とそのクラブで出会い、心を奪われていく・・。

原題がDeception(詐欺とか偽装とか・・騙されること)だと知った段階で、おおよそのネタの見当がついてしまった。意味ありげな邦題、ミステリアスな予告編とちょっと魅惑的なこのジャケットに惹かれてレンタルしたのだが、それこそ「騙された」という感じ。

既にみなさまがご指摘の通り、主なツッコミどころとしては:
― ジョナサンを騙そうとするのであれば、そもそもそんな大がかりな仕掛けを張らなくてもいいのでは?
― わざわざPG-12指定にするほどのエロティック・サスペンスか?
― ストーリーに、なんら意外性がないのでは?(クラシカルなサスペンスの王道なのかもしれない。だけど、「ヒッチコック的」と称されている方もいるが、そこまでのレベルでもない。)
― お願いだから、大金の入ったカバンを公園に置いていかないでくれる?(愛も大切だけど、好きな人と一緒に生活するためのお金も大切だと思うよ、ジョナサン。いきなり純愛路線に持っていかないでほしいのよね。)
などなど(細かい点を挙げるとキリがないので、これくらいにしておきます。)

真面目な会計士を演じるユアンと今回は悪人を演じるヒュー目当てならば観て損はないけど、特にどちらのファンでもないという方にはあまりおススメできない作品。しかし、脇を固めているのは、ミシェル・ウィリアムズ、シャーロット・ランプリング、マギーQ、ナターシャ・ヘンストリッジやリサ・ゲイ・ハミルトンなど錚々たる顔ぶれの美しい女優さんたち。つまり、陳腐なストーリー展開、深みのない脚本や希薄なオチで、すばらしいキャスティングをぶち壊してしまっているということになる。なんと勿体ない・・!

キャスティング以外にこの作品の良い点を必死で探した結果、マンハッタンの美しい夜景、豪華なホテルやマドリッドの風景の映像が楽しめるということと、ユアンとヒューの演技がまずまずであることくらい。最後に超個人的な意見を言わせてもらえば、ユアンの真面目な会計士役に好感は持てたんだけど(いつもの七三分けで・・そう言えば昨日観た「天使と悪魔」でもまたまたこのヘアー・スタイルでした)、彼のダサダサな白の下着姿は観たくなかったなぁ。★2.3
落下の王国
2007 アメリカ 洋画 ファンタジー ドラマ
作品のイメージ:癒される、おしゃれ、スゴイ
出演:リー・ペイス、カティンカ・アンタルー、ジャスティン・ワデル、ダニエル・カルタジローン

とにかく映像が美しい作品(これは、劇場で鑑賞したかったです)。CGを使わず20カ国以上でロケを敢行、タージ・マハル、万里の長城やアンコール・ワットなどの13ヵ所の世界遺産の映像が織り込まれている。オレンジの木から落ちて怪我を負い入院している少女アレクサンドリアは、足の怪我でベッドから起きられない青年ロイと知り合う。ロイは自分の即興のおとぎ話をアレクサンドリアに聞かせ、アレクサンドリアはその話にたちまち夢中になる。しかし、ロイが企んでいたこととは・・。

なぜ原題が”The Fall(落下)“なのだろうということを考えてしまった。ロイもアレクサンドリアも落ちて怪我をしたことが原因で入院している、ということだけではない。これは、ロイが企んでいることも「落下」、ロイが途中で眠りに落ちてしまうのも「落下」、そしてロイの苦しみも「落下」ということになるのだろうか。ロイの物語というのは、6人の勇者が世界を駆け巡り、悪と立ち向かうという壮大な愛と復讐の叙事詩。時にはロマンティックで時にはコミカルな物語の中に、「落ちる」イメージが何度も出てくる。つまり、全篇に亘って「落下」がモチーフとなっている。アレクサンドリアは、物語の中で主人公の死を選ぼうとするロイに対して「殺さないでほしい!」と叫ぶ。つまり、アレクサンドリアは、ロイにとって生から死へと「落下」を阻止することができる「希望」の象徴なのだと思う。

アレクサンドリア役の少女を演じるカティンカ・アンタルーは、これがデビュー作なんだとか。お世辞にもカワイイとは言い難いけど、あどけない少女らしい演技が板についている。あと、物語の異空間の中での映像美と病院内での暗いイメージのコントラスト・・これはまさに幻想と現実の対比を表わしているかのよう。北京オリンピック開会式のコスチュームを手がけた石岡瑛子さんデザインの原色の衣装も、斬新で観る者を魅了する。音楽も映像に合わせて選んだという感じで、ピッタリとはまっている。

世界遺産をすばらしい映像で観れたことだけでも、かなりお得な感じ。ストーリーについては、ちょっとフワフワとした感じで自由発想的というか変貌自在というか。強烈な色彩と絶妙なカメラワークで、ストーリー自体が霞んでしまいそうな感はあるが、「落下」というモチーフがくっきりとした線で浮かび上がっている中に、摩訶不思議な独特の世界観が展開されていて、美しい映像と相まってまさに圧巻。物語の中の登場人物に感情移入するというよりも、映像の中からあらゆる心情を拾い上げていくような感じ。

鑑賞するたびに感じ方が違ってくるかもしれない。また、受け手によって魂の揺さぶられ方が違うといった作品なのだと思う。なので、「とらえどころがない」と感じられる方もおられるかもしれないが、観客が現実と虚構が交錯する中に「何か言葉にはできないもの」を感じ取れれば、監督の狙い通りなのであろう。現実が投影させた即興のおとぎ話がアレクサンドリアの存在によって、ポジティブな展開を見せていく・・それだけでも、勇気を貰うことができる。優しさと温かさで観る者を包み込んでくれるような良作に出逢うことができた。★3.8
宮廷画家ゴヤは見た
2006 アメリカ スペイン 洋画 ドラマ 文芸・史劇
作品のイメージ:切ない、ためになる
出演:ハビエル・バルデム、ナタリー・ポートマン、ステラン・スカルスガルド、ランディ・クエイド

ストーリー展開はそれほど複雑ではなく、時代に翻弄された二人の男女の運命がゴヤの目線で濃厚に描かれた歴史ドラマ。しかし、二人のラブ・ロマンスではない。18世紀末のマドリッド。国王カルロス四世の宮廷画家であるゴヤ(ステラン・スカルスガルド)は、富裕な商人の娘イネス(ナタリー・ポートマン)とロレンソ神父(ハビエル・バルデム)の肖像画に取りかかっていた。その頃、カトリック教会ではロレンソ神父が指導する異端審問の強化が図られ、イネスがユダヤ教徒の容疑により審問所で取調べを受けることになる。しかし、19世紀に入って、ナポレオン率いるフランス軍がスペインを占領。ナポレオンの兄のジョセフが国王として君臨しスペインを統治。異端者審問は廃止され、捕えられていため囚人はすべて解放されることに。

宮廷に仕える身でありながらスペインのカトリック教会に対する反逆精神を持っていたゴヤは、教会を批判した版画をたくさん描いていた。オープニングとエンディングでは、その数々の版画が映されている。実際、イネスも居酒屋で豚肉を食べなかっただけで、ユダヤ教徒であるという嫌疑をかけられてしまったわけで・・。そこからもユダヤ教徒やプロテスタントを迫害しようとするカトリック教会の絶大な権力と暴走を、伺い知ることができる。

ミロス・フォアマン監督は、「ゴヤは時代の観察者」と表現し、ゴヤをまるでジャーナリストのような位置付けでこの作品を制作したのだとか。信仰心が強すぎるため広い心で自分と違う価値観を認めることができなくなり、それが徐々にエスカレートしていくカトリック教会のある意味狂信的な純粋さといったところを、鋭く描いていると言える。ゴヤは意識的に政治や宗教に関わっていたのではなく、あくまでも普通の人々の視点から時代を見ている。

もっとゴヤの内面が表現されていたり他の代表作(「裸のマハ」など)もたくさん出てくるのかと思いきや、時代の観察者という立場での風刺画や肖像画などの作品が中心となっていて、その辺りがやや物足りなかった。ゴヤは女性を美しく描いたのに、世の中を見る目は厳しかったということのよう(それにしても、王妃の馬上姿についてだけは、かなりブサイクに描いていましたね)。時代を民衆のスタンスから見届けてそれを後世の人々に残すことがゴヤの使命だったと考えると、それも納得できるものなのかも。

釈放された後のイネスについては、ナタリーの迫真の演技と言えるものなのだが、身も心もボロボロになっていく娘という感じで、あまりに哀れで観ているだけで正直つらかった。ゴヤが天使のモデルにしたというくらい美しかったイネスの姿はもはや・・。また、ナタリーが一人二役で、勝ち気な娼婦アリシアとイネスを絶妙に演じ分けているところが凄い(アリシアとは誰なのかについて、ネタバレになるため以下省略)。ハビエルも、時代の流れに翻弄されながらもうまく世渡りをして生き延びる野心溢れるロレンソ神父を、かなり余裕たっぷりに、しかも役柄を自分のものにしながら演じているといった感じ(人間の生臭さが感じられる点は、相当なレベルの高さです)。

映像については、すべてスペインロケを敢行したことが奏功し、かなり見ごたえのあるものに仕上がっている。音楽については、さすがに「アマデウス」ほどではないが、自然にその時代の映像と融合しているといった印象。「黒い絵」と呼ばれる14点の作品など、ゴヤについてもっと知識があればより楽しめた作品だと思うので、ゴヤについて自分なりにもう少し勉強してから再見してみたいと思う。★3.6
最後の初恋
2008 アメリカ 洋画 ラブロマンス ドラマ
作品のイメージ:癒される、切ない、カッコいい
出演:リチャード・ギア、ダイアン・レイン、スコット・グレン、クリストファー・メローニ

ちょっぴり胸がキュンとする大人の純愛物語。海辺の町ロダンテのロッジを5日間だけ任されたエイドリアン(ダイアン・レイン)。その季節外れのロッジにポール(リチャード・ギア)が、宿泊客としてやってくる。別居中の夫や反抗期の娘との関係に疲れ果てていたエイドリアンと外科医として悩みを抱えていたポールは、互いに魅かれあうようになるといった熟年ラブ・ロマンス。

まず、リチャード・ギアがひたすらカッコよい・・ということ(60歳近くにしてあの肉体・・スバラシイです)。あと、十代の娘のような笑顔のエイドリアンを見て、何歳になっても恋をしていると表情が輝いているのね・・なんて羨ましい気がしたこと。最初は生活に疲れた主婦っていう感じだったエイドリアンが、生き生きとした女性に変わっていくダイアン・レインの演技はさすが・・ということが主な感想。但し、ストーリーがあまりにもベタなので、どなたかも既にブログで書かれていたように「ハーレクイン・ロマンス」のような感じがしないでもない。特に大きな盛り上がりもなく、良い言い方をすれば、「しっとりした大人の恋物語」だとも言えるのだけど、キツイ言い方をすれば「ありきたりの安易なストーリー」で終わってしまっている。

リチャード・ギアとダイアン・レインが爽やかに演じているので、全くいやらしさが感じられない恋物語になっている点は観ていて清々しい(このジャケットのイメージ通りです・・あ、エイドリアンは既に別居中、ポールは離婚しているから不倫にはならないのですね)。美しい海岸を背景にしていることも、それに一役買っているのだろう。また、清潔感溢れる美しい恋物語になっているというところがロマンティック、そして酸いも甘いもかみ分けた年齢になったからこそできる恋を描いたという意味では円熟した感じ、この二つの要素が壮麗にミックスされていると思う。それらの象徴となっているのが、海辺に建っている幻想的なロッジと厳しくも二人の恋心に火をつけてしまうハリケーン。

これは、あくまでも短い間の恋物語。だからこそ、幻想的な美しい物語になり得るとも言える。もしこれが何年も続いて二人が結婚するとかなったら、エイドリアンは夫と正式離婚しなくてはいけないわけだし、子供たちとの関係にも影響してくるだろう。そうすると、厳しい現実が迫ってくるわけで・・(大人の恋愛を子供が支えてくれるという部分は、余計な気がしました・・だって、既に現実が迫ってきている感があって、この「最後の初恋」というテーマと合わないような)。逆の言い方をすれば、短い期間で終わったから思い出が美化され、また手紙という媒体でお互い綺麗な部分しか交換しないから、いつまでも心の中に美しく刻まれるものなのだと思う。そういう意味では、この邦題のセンスはよい(「ロダンテの夜」でも悪くはありませんが)。

観客に対してあまりに直球で勝負してくる作品ではあったけど、リチャード・ギアもダイアン・レインも自然に役になりきっていると感じられるほど熟練した演技だったこともあり、久しぶりに甘く切ない思いに浸らせてもらった。というわけで、ちょっと甘めの評価の★2.8。
この自由な世界で
2008 イギリス イタリア ドイツ スペイン 洋画 ドラマ
作品のイメージ:切ない、ためになる
出演:キルストン・ウェアリング、ジュリエット・エリス、レズワフ・ジュリック、ジョー・シフリート

「ファーストフード・ネイション」の英国版とも言えるような、先進国が弱い国の人たちを低賃金または無報酬で働かせて搾取するといった社会問題をテーマにした作品。ケン・ローチ監督の強いメッセージが、織り込まれている。アンジーは、夫とは別れ息子のジェイミーを両親に預けて働くシングルマザー。今まで散々組織に踏み躙られてきた彼女だったが、会社に不当解雇されたことを機に、それまで培ってきた経験とノウハウを生かして人材会社を立ち上げる。それは、移民労働者を集めて、日雇いなどの職業を紹介するという事業。斡旋する移民労働者の数は増えてはいくものの、資金繰りは悪化。アンジーは非合法的な仕事をする方が儲けにつながることを知り、次第に彼女の感覚は麻痺していく。人を踏み台にすることを、だんだんなんとも思わなくなってしまうのであった。

先進国の市場原理型資本主義の世の中においては、低賃金労働者の需要が多くなる。すると、日雇い労働者、非正規労働者として働く人が増え、中には不法就労する人も出てくる。職業紹介所自体が、不法就労を斡旋する場合すらある。日本も、その例外ではない。2008年の金融危機に端を発した世界的不況で、真っ先にリストラの対象になるのは派遣社員の人たち。派遣切りが進む一方で、全体の仕事は減るわけではない。そうすると、職場環境はさらに劣悪になり、労働条件は悪化するばかり。

タイトルである「この自由な世界で」の「自由」とは、いったい何なのか?「自由」とは何をしても構わないがすべて自己責任でやり遂げることだとすると、自分さえ生き延びれば他の人はどうなってもいいということになるのか?また、事業に成功すればよいが、失敗してしまえば無限に責任を被ることになってしまう。もともとは弱い立場の人を助けたいと思って会社を立ち上げたアンジーだったが、そんなアンジーですら息子と自分が食べていくため、競争社会で生きていくために、悪の道に染まってしまうのだ。そう考えると、「『自由』を求めて」とか「『自由』で豊かな社会」とか良い意味で使われることの多いが、自由は人間の「権利」であると同時に恐ろしい反面を持っている「重い義務」でもあるように思えてしまう。

はっきり言って、後味はよくない作品。答えの出ない問題を思いっきり目の前に突き付けられたようで、やるせない気持ちでいっぱいになった。市場原理の資本主義を非難しているのか・・?だからと言って、社会主義が良いのだとも言っているわけでもないし・・。アンジーと一緒に会社を立ち上げたパートナーが、アンジーが最初人助けのために移民の一家を自分の家に泊めてあげていたとき「あなた、マザー・テレサにでもなったつもり?そんなことをしていたら、キリがないわよ」と言っていたが、資本主義の考え方で言えばまさに「キリがない」のである。だからといって、完全に見て見ぬふりをするわけにもいかない。

では、いったいどうすれば・・?そもそも、みんなで一緒に幸せになる、なんてできないのだろうか?みんなで一緒に幸せになろうとするから、みんなが破綻するものなのだろうか?獲るか獲られるか・・攻めないと攻められる・・これは抗うことのできない鉄則なのか?人は、人を救うことはできないのか?人は、自分自身しか愛せないものなのか?捨身飼虎という言葉があるが、そんな自己犠牲の愛は、神か仏の愛であろう。しかし、人は、人を思いやることはできる。人の存在を感じ、喜びや悲しみを共にすることができる。その心の広がりは、弱肉強食という資本主義社会の中に生きていかざるを得ない人間の孤独の中に射し込む一筋の光明のようである。ストーリーを追いながら、そんなことを漠然と考えさせられた。そういったドラマだけに、映像、脚本、音楽などについてはほとんど印象に残らず、ドラマのメッセージだけが太い一本の柱のようにそそり立っている感じがした。★3.4
キューブ■レッド
2007 スペイン 洋画 ミステリー・サスペンス
作品のイメージ:ためになる
出演:ルイス・オマール、サンティ・ミラン、アレホ・サウラス、エレナ・バレステロス、フェデリコ・ルッピ

正方形の部屋で生き残りを賭けた壮絶な知能戦ドラマと言いたいところだが、数学好きの方におススメなシチュエーション・ドラマ。数学者である四人は、フェルマーという男性から謎の招待状を受け取る。湖畔の山荘に集められた四人の前にフェルマーと名乗る男性が現れて、五人で夕食を共にする。しかし、フェルマーは急用ができたと言って山荘から立ち去る。しばらくして携帯にクイズが送信されてきて、制限時間以内にそれを解かないと正方形の部屋の四方の壁が押し迫ってくるといったお話。

「CUBE」シリーズのパクリというか便乗ものだということはよく言われているので、あまり期待はしていなかったものの、やはり切羽詰まった状況でもなぜか緊迫感があまり感じられない、クイズの内容も既にどこかで聞いたことのあるようなものばかりで斬新さが感じられない、などの不満な感想が残った。また、クイズの制限時間が一分なので、観ている方としては「あぁ、そんなクイズ聞いたことがあるかも」と思っているうちに誰かが答えを言ってしまって、観客が数学者と一緒にクイズを解いていくという醍醐味も味わえず、なんとなく置いてきぼりを食らったような感が。まぁこれじゃあ、DVDスルーになったのも仕方がないでしょう。

とは言え、数学に疎い私は、この作品を通じていろいろ勉強にはなった。まず、フェルマーは過去実際に存在した数学者(1601-1665年)で「フェルマーの最終定理」というものがあるということ、それから「ゴールドバッハの予想」という未解決問題が出てくるんだけど、「ナニソレ?」と思い早速wiki で調べてみたところ、加法的整数論の問題なのだとか。概要を読んではみたものの、あまりというかサッパリ理解できなかった(トホホ・・)。というわけで、数学好きの方は、この作品を楽しめるかもしれない。しかし、いくらなんでも一分でクイズを解くのは至難の業。クイズの内容を理解した後に、一時停止のボタンを押しながら解いていくとかいう楽しみ方もあるのかも。

原題は「フェルマーの部屋」。原題をそのまま邦題にした方が、数学好きの人をターゲットにできるような気がする。それに、その方が「CUBE」シリーズのパクリという汚名も返上され、結構レベルの高い数学的シチュエーション・ドラマとして評価されるのかも。だんだんと極限状態に追い込まれる四人の人間関係と犯人の意図も次第に明かされていくところは、普通のサスペンス・ドラマとしてまずまずの出来だと思ったけど、ラストはちょっと呆気ない感じが。★2.0

―ちなみに、携帯に送信されてくるクイズの一つを、ご参考に供します―
「天国と地獄の門があり、それぞれ門番がいる。一人は正直者で、もう一人は嘘つき。一つだけ質問して、天国の門を通るには?」(といった感じです)
ダニエラという女
2005 フランス 洋画 ラブロマンス
作品のイメージ:笑える、ほのぼの、おしゃれ
出演:モニカ・ベルッチ、ベルナール・カンパン、ジェラール・ドパルデュー、ジャン=ピエール・ダルッサン

モニカ・ベルッチの魅力が満載、そしてシャレやブラック・ユーモアをスパイスのように効かせて男女の愛を描いた作品。モニカの単なるPVで終わっていないところがいい感じ。飾り窓の娼婦ダニエラ(モニカ・ベルッチ)は、平凡な男フランソワから宝くじが当たったからお金が続く限り一緒に暮らしてくれと持ちかけられ、一緒に暮らすようになる。しかし、ダニエラはあまりにも妖艶で、娼婦という過去から抜け出すことができず・・。

フランソワの友人である冴えない医者がダニエラの裸体を見てショック死してしまうあたりは、ブラックなんだと思う。そんなユーモアな中にも、男女の究極の愛のかたちがちらっと垣間見えるあたりは、ベルトラン・ブリエ監督の技。本能的な見地から考えた場合、男性が女性を愛するとき、どうしても征服欲というのがはたらく。ダニエラのパトロンとフランソワの会話からも、男性の征服欲というものがはっきりと伺える。また、女性が男性を愛するとき、より力のある男性、またはより自分にお金を使ってくれる男性を選ぶ傾向がある。それはダニエラの行動やセリフ(「私の特技は男性に愛されること」)からもわかるように。女性の場合は、金の切れ目が縁の切れ目になりかねないということも。しかし、これはあくまでも男女の本能的な行動傾向のこと。

では、男女の真実の愛とは・・?ダニエラは、最後に真実の愛を見つけることはできたのか?フランソワの宝くじの話は、果たして本当だったのか?また、フランソワが心臓が弱いと言っていたのは・・?ちなみに、原題の直訳は、「あなたはどれほど私のことが好きですか?」。邦題は邦題でよいが、この原題がこのドラマの本質を語っていると言えるのでは。ダニエラのパトロンが最後に言うセリフ「私は彼女を愛しているから、自由にさせるのだ」が印象的。

モニカの裸体は、同性の私が見ても美しすぎる。なんでも、出産直後に撮った映像なのだとか。それに、モニカの美しさに加えて、彼女の何気ない仕草や豪華なファッションも見どころ。また、モニカがダンスするシーンもある。飾り窓に座るダニエラ、フランソワと暮らし出すダニエラ、パトロンとフランソワの会話に参加するダニエラ・・場面転換の素早さと絶妙な照明の使い方、そして気の利いた会話・・すべてがモニカを引き立てるために計算し尽くされた演出となっている。監督がモニカのために撮った映画と言っても過言ではないかもしれない。

但し、おフランス的な(?)シャレやブラック・ユーモアもたっぷりなので、「ショック死したお医者さんがかわいそう」とか「『私の特技は男性に愛されること』、なんて言えるオンナの神経がわからない」とか真面目にとらえてしまうと、ちょっとキツイ作品になってしまうかも。モニカの美しさを愛でながら、男女の愛のかたちを遊び心で鑑賞してみたい・・そんな気分のときにピッタリな作品なのだと思う。★3.4
007 慰めの報酬
2008 イギリス アメリカ 洋画 アクション スパイ
作品のイメージ:カッコいい、ドキドキ・ハラハラ、スゴイ
出演:ダニエル・クレイグ、オルガ・キュリレンコ、マチュー・アマルリック、ジュディ・デンチ

前作の「007 カジノ・ロワイアル」の続編で、ボンド役はダニエル・クレイグが続投。恋人ヴェスパーを失ったボンドは、謎の組織の真相を探るべくハイチに跳ぶ。そして、ドミニク・グリーンという男の存在に行き着き、グリーンが裏ではボリビアの政府転覆と天然資源の支配を目論んでいることを知る。ボンドは復讐心を胸に秘めながら、グリーンの計画阻止に動くのだが・・。

一言でいえば、アクションは前作同様に見応えがあり、スピード感もたっぷりといった印象。ボート・チェイスあり、カー・チェイスあり、空からのダイビングもありで、その目の回るような展開は前作の作風を引き継いでいる感がある。激しい乱闘の後でも次の任務へと颯爽と向かうボンドの動きにキレがあり、観ていてテンションは上がるし非常に気持ちが良い。ほとんどのアクションは、スタントを使わずにダニエルが演じたのだとか。また、愛した女性のことが忘れられずに葛藤するボンドの人間味溢れるところが、ダニエルの演技からしみじみと伝わってくる。

但し、(このネタはもう読む方が辟易するくらい書いているのですが)「007 カジノ・ロワイアル」のvillain(悪役)であるル・シッフル(マッツ・ミケルセン)は惚れ惚れするくらいカッコよかったのに対し、今回はムニャムニャ・・。今回のvillainドミニク・グリーンを演じたマチュー・アマルリックについては、間違いなく演技が上手な俳優さんだとは思うのだけど、どうしてもマッツと比べてしまう。表の顔は、環境保護のために尽力する慈善団体「グリーン」のトップといういかにも偽善者役なんだけど、もうしゃべり方からして悪役っていう感じで、「あぁ、こいつはvillainなんだな」と観ている方は一発でわかってしまう。わかりやすいと言えばわかりやすいんだけど、なんか捻りがないような。(話が脱線しますが)007のvillain コレクションの某ブランドの腕時計のドミニク・グリーン・シリーズを見てみたけど、うーん・・イメージに合わないような(マチュー・ファンの方、スミマセン)。それに、ボンドとグリーンの直接対決があまりにもあっさりしすぎていて、ちょっと肩透かしを食らわされたような感じ(もっと壮絶な対決を、当然のように期待していたわけでして・・)。

今回のボンド・ガールについては、元ボリビアの諜報員で殺された家族の復讐に燃える美女カミーユ(オルガ・キュリレンコ)。オルガは、「薬指の標本」、「蛇男」や「ヒットマン」などにも出演しているよう。ウクライナ出身のモデル・女優さんということで色白なんだけど、役作りのために今回は肌の色を小麦色にしているのか・・もともとのイメージとかなり違う。ボンドと彼女とは復讐を果たすための同士というような関係であり、男女としては親密にはならない。

相変わらず硬派なボンド、そして秘密兵器などを使わないアクション中心という意味においては、前作に引き続きこれまでの007シリーズとはまるで違う。なので、ショーン・コネリーが演じた以前の007シリーズが好きな方は、またまた違和感を感じられるかもしれないが、「007 カジノ・ロワイアル」で満足された方は、相応の満足感が得られる内容となっている。個人的にはこの路線が気に入っているので、ダニエル起用の次回作にも期待したいところ。★3.7
ベンジャミン・バトン 数奇な人生
2008 アメリカ 洋画 ドラマ ファンタジー
作品のイメージ:感動、ほのぼの、切ない
出演:ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、タラジ・P・ヘンソン、ジュリア・オーモンド

第 81回アカデミー賞で最多の13部門にノミネートされたということと、特殊メイクで話題をさらった作品。80代の男性として生まれ、日に日に若返っていくベンジャミン・バトン(ブラッド・ピット)。そんな数奇な人生を生きた男性の物語。ベンジャミンは心を寄せるデイジー(ケイト・ブランシェット)と愛し合うようになるのだが、自分の未来を危惧し別れることになる。そして・・。

ストーリー自体(1920年代にF・スコット・フィッツジェラルドが執筆したもの)は非現実的な着想であるにもかかわらず、何故か心に迫るリアルさを感じた。不条理さのかけらも感じさせない演出には脱帽。精神は年老いて行きながらも、若返っていく肉体。愛する人と一緒に年をとることができない辛さ、愛する人と家庭を築くことができない悲しみ・・そんなベンジャミンの心のうちが痛切に感じられた。最期は皆と同じ死を迎えるはずなのに、人生の時計が逆行するという悲劇によって、ベンジャミンは孤独に生きていくしかない。人生が時間から自由になれないという悲哀、そして人間が生きる時間は限られているという残酷さが、非現実的な中にも現実味を帯びたかたちで描かれている。

人間は、時間から束縛されずに生きていくことはできない。人生は、時計の針によってその一秒一秒が刻まれている。愛する人と結婚し毎日一緒に暮らしていると、相手が空気のような存在に感じられることもあるだろう。そして、一緒にいることが当たり前で、一緒にいることの有難さを忘れがちになる。でも、愛する人と人生の時間が逆行していたら・・?愛する人と巡り合えたという奇跡、そして一緒に過ごす時間の大切さを、静かながらずっしりとしたかたちで観る者に訴えかけてくるよう。長く一緒にいるから、深く愛し合っているとは限らないのだと。167分とちょっと長めの作品ではあるが、その長さを感じさせないのは、作品の流れの一瞬一瞬にも時間の大切さを織り込んだ内容となっているからではないか。

年老いた顔がだんだんとブラピの顔になっていくのにドキドキ・・(ブラピの熱心なファンということでもないのですが)。ケイトのバレリーナ姿もステキ・・。ブラピかケイトのファンであれば、かなりお借り得(またはお買い得)な作品であること間違いない(というか、観るべきでしょう)。人生教訓にもなるセリフをテンコ盛りで一つ一つのセリフが心に沁みるし、しかも観る人をほんわかと温かく包みこんでくれるような雰囲気(なので、「特別ブラピやケイトのファンでもないわ」という方にもおススメできます)。というわけで、ストーリー的にはファンタジーだけど、ある意味「寓意詩」と呼ぶにふさわしいものかもしれない。

洒落たオープニング(ワーナーのロゴに着目・・あ、パラマウントのマークも凝ったものでした)と、細かく演出されたラストも見逃せない。邦題の副題となっている「数奇な人生」は要らないかも。★4.1
アウェイ・フロム・ハー 君を想う
2004 カナダ 洋画 ドラマ ラブロマンス
作品のイメージ:切ない、ためになる
出演:ジュリー・クリスティ、ゴードン・ピンセント、オリンピア・デュカキス、マイケル・マーフィー

「美しくも切ない夫婦愛の物語」というより、強烈にブラックな作品なんだと思う。夫婦愛を描いたというよりも、夫婦関係の本質みたいなものを毒舌的に追及しているといった感じ。アリス・マンローの短編小説をもとに、「死ぬまでにしたい10のこと」に出演したサラ・ポーリーが監督デビューを果たした作品。

結婚して44年になるグラント(ゴードン・ビンセント)とフィオナ(ジュリー・クリスティ)。フィオナは認知症だと診断され、自ら養護施設で暮らす決意をする。入所して一ヵ月間は、肉親との面会も禁止されている。一ヶ月後にフィオナに面会に行ったグラントだったが、なんとフィオナはグラントのことを忘れてしまっていて、同じ施設にいる男性と親密になっているのだった。グラントに、「もしやこれはフィオナが自分を罰するための芝居では・・」という思いが過ぎる。グラントは、過去に浮気をしていたことがあり、その不実が妻を苦しめたという自責の念に駆られる。

昔アイスホッケーのアナウンサーだった人が、施設の中でテレビのアイスホッケーの試合を観ながら実況アナウンスをしているシーンは、切ないと同時に不謹慎かもしれないがちょっと笑ってしまった。人生の夕暮れ時になると、自分の人生の中でいちばん輝いていた時のことを思い出しながら、それに浸るものなのかしら。自分がもし認知症になったら、果たしてどの記憶が脳を支配するのか。なんか、この元アナウンサーの人のモチーフが、本筋にも増してインパクトがあり、作品のテーマへの鋭角なアクセントとなっている。

感動作として期待して観たら肩透かしを食らったような感じがするかもしれない。しかし、夫婦関係においての男性と女性、相手をどう愛するべきなのか、人間の記憶とは何なのか、それに人間の尊厳について深く考えさせられるような大人の映画という気がする。男性は、家族愛と性とは別物だと考えているのかもしれない(男性じゃないからよくわかりませんが)。でも、女性は・・。夫婦愛は、恋愛ではないことは断言できる。夫婦愛は恋愛の延長上にある家族愛の一つのかたちであるとするのなら、結婚して40年以上も経つと相手に性的な魅力を感じなくなる場合もあるだろう。でも、夫婦としての義務は果たさなければならない。

観た後答えの出ない無限ループに迷い込んだような感覚に陥ってしまった。これだけ鋭く深く人間の記憶や夫婦について描けている作品は、そうないであろう。脳も身体の一部・・いつかは朽ち果てるもの。そして、愛を感じるのも脳・・。美しいカナダの冬の景色を背景に、逃れようのない現実を突きつけられたようで、ややショックを受けた。それにしても、ジュリー・クリスティが、美しく老いていく一人の女性を見事に演じている。★4.3

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