あず沙の映画レビュー・ノート

しばらくお休みしておりましたが、そろそろ再開いたしました
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スヌーピーの選挙活動
1972 アメリカ 海外アニメ ファミリー (アニメ)
作品のイメージ:笑える、ほのぼの、癒される、かわいい

ピーナッツの仲間たちが繰り広げるお馴染みのショート・ストーリー・アニメ。1972年にアメリカでTV放映されたもので、今回は選挙がテーマになっている。生徒会長に立候補することを勧められたチャーリー・ブラウンだったが、ルーシーの事前調査でチャーリーはあまり人気がないことがわかる。そして、代わりにライナスが出馬することに。選挙活動をするピーナッツの仲間たち。さてさて、結末は・・といった感じのストーリー。ライナスが果たして選挙公約を守れるのかどうか・・というところが当時の大統領選挙と政府の信頼性を、ちょっぴり風刺しているような。ライナスの「宿題を減らす」という公約が、笑える。

「スヌーピーのいじめっ子と勝負!」が、ボーナス・エピソードとして収録されている。こちらはサマー・スクールに参加したチャーリーが、ビー玉ゲームの名手でもあるいじめっ子とビー玉対決をするというもの。子供の頃が、なんとなく懐かしく思い出される。また、子供のものの見方を尊重したシュルツの描き方が、ほのぼのとした気分にさせてくれる。スヌーピーがチャーリーをビー玉ゲーム対決に向けて特訓するところが、かわいい。スヌーピーって料理もできるし、ホントにマルチなのね。

今回は、ウッドストックがあまり出てこなかったのが残念。また、スヌーピーの出番も、他の作品と比べて少ない。このシリーズの他の作品(「スヌーピーの感謝祭」「スヌーピーのメリークリスマス」や「スヌーピーとかぼちゃ大王」など)を観てから、気が向いたら観てもいいくらいな感じ。そう言えば、圧勝だと思われていたライナスが結局苦戦を強いられるんだけど、なぜ人気を落とすことになったのか・・。この辺りは、他のシリーズ作品を観てからの方がよく理解できるのかも。★2.2
ブラックサイト
2008 アメリカ 洋画 ミステリー・サスペンス
作品のイメージ:ドキドキ・ハラハラ、怖い
出演:ダイアン・レイン、ビリー・バーク、コリン・ハンクス、ジョセフ・クロス

現代のネット社会に警鐘を鳴らすサイバー・サスペンス。FBIサイバー犯罪課の捜査官ジェニファー(ダイアン・レイン)は、ある日 “killwithme.com”という不審なサイトを見つける。身動きがとれない動物が衰弱していく様を、ライブ中継している。サーバーが管轄外のロシアにあって、IPアドレスがどんどん書き換えられているので、主謀者が特定できない状態。今度は、縛り付けられ薬物を投与されている男性が映し出され、そのサイトへのアクセス数が増えるごとに薬物の投与量も増やされる仕掛けが施されているのだった・・。

サスペンス自体は、地味でシンプル。どんでん返しがあるわけでもなく、犯人との心理戦や頭脳戦があるわけでもなく・・。監督のメッセージも、簡単明瞭。闇サイトにアクセスする人もまた共犯になる・・というところが本作のミソ。なんの罪悪感もなく好奇心だけでアクセスするネット利用者。秋葉原通り魔事件を、思い出してしまった。あの事件でもまた、目の前で次々と人が刺されて倒れているにもかかわらず、被害者を助けるでもなく携帯のカメラで撮影してネットの掲示板に投稿する野次馬がいっぱいいた。それをニュースに使っているメディアも、どうかと思う。人の悲しみや苦しみを平気でネタにしたり、大勢で個人を攻撃したり・・モラルを完全に無視して暴走する人たちをネットが作り出している、とも言えなくはない。

ダイアン・レインは、この撮影で彼女自身がサイバー恐怖症になっちゃったとか。それもわからないではない。ネットって、もう生活になくてはならないものになってしまっている。仕事で使うのはもちろんのこと、私生活でも買い物やいろんな手続きから銀行関係の用事まで全てできちゃう。顔が見えない者同士が、コミュニケーションをとったりも。便利なんだけど、個人情報がハッキングされたり、ウィルスに感染したり、自分のデータが改ざんされたりするリスクもある。非現実の世界でなんでもできる・・というところが底が見えないだけに、空怖しい。

原題は、“Untraceable”(追跡不可能)。でも、本当に追跡不可能かっていうところが、ちょっと疑問。別に組織的な犯罪でもないし、一個人だからどうにかして特定できないものなのかしら。それに、なんとかアクセス数を減らす工夫だってできたはず。サーバーがロシアにあるとしても、ロシアに連絡をとることだってできたはずだし。また、犯行の現場の地域がわかっているのなら、その地域の通信を強制的にシャットダウンすることも可能だったのでは・・とか。それほど真面目に考えることもないっわーははと笑えればいいんだけど、そんな娯楽映画でもない。あまり専門的な内容にすると観客がついて来れないので、わざとわかりやすくしたのかなぁ・・ということで納得することに。

グロい映像が結構出てくるので、子供さんとは絶対一緒に観ない方がよい作品。ダイアン・レインの捜査官役が「羊たちの沈黙」のジョディ・フォスターの役柄のようではあるんだけど、作品自体が「羊たちの沈黙」ほど完成度が高くないし、こじんまりとまとまり過ぎている。前半はネットの底知れぬ怖しさを上手く描けているが、後半はただネット中継のモニターを眺めているだけの手ぬるい捜査にイラツキを感じたのと、ラストも結構呆気ない感じで「あれ・・これでおしまい?」という感じが。ネットを悪用した犯罪が蔓延ってる昨今にタイムリーな作品ではあると思うが、この作品を観て真似するバカが出てこないことを祈る。 ★2.5
ダークロード -闇夜の逃亡者-
2006 スウェーデン 洋画 アクション ミステリー・サスペンス
作品のイメージ:カッコいい、ドキドキ・ハラハラ
出演:マッツ・ミケルセン、アレクサンダー・スカルスゴール、サミュエル・フレイレル

マッツ・ミケルセン様、

あなた様をお慕いしている極東に住む一ファンの感想です。

「しあわせな孤独」出演後には「デンマークで最もセクシーな男」に選ばれ、「フレッシュ・デリ」では演技力が高く評価され、「キング・アーサー」でハリウッドへ進出、「007 カジノ・ロワイヤル」では世界的に知名度を上げ、「アフター・ウェディング」ではファン層の幅を広げたあなた様が、なぜこんな映画に出演されたのでしょうか。

この邦題のつけ方からしてあまり期待はしていなかったものの、内容たるや酷すぎます。B級、いやC級以下の作品と言ってもよいでしょう。今までの作品とは違い、あなた様が主役を独占するということで、プロモーション・ビデオの感覚で鑑賞しました。しかし、画面が暗過ぎてあなた様のお姿がきれいに撮れていない、プロットが複雑過ぎてなんだかよくわからない、あなた様の悪役ぶりが光っていない・・などなど残念な要素ばかりです。

ストーリーはというと、もうどうでもいいような感じですが、便宜上書いておくと:
ベンチャー投資会社の経営で成功した実業家トーマス(マッツ・ミケルセン)。ある日トーマスの経営パートナーが何者かに殺害され、その容疑者として逮捕されてしまう。無実を訴えるトーマスだったが、そんな中過去トーマスに追い詰められて自殺を図ったはずの男モーガンから電話が。妻子の命が惜しければ、海外口座のアクセス・コードを教えろ、と迫られる。そして、トーマスは、妻子を守るために警察の目を盗んで逃走する・・といった感じでしょうか。

背景となる景色は北欧だけどストーリー展開はちょっとハリウッド的かなとも思い、オープニングは少し期待が高まりました。しかし、その期待感も失速・・。また、ビデオ・テープに写っていたもので真実がわかるところは、ゾクっとさせられました。でも、その後のシーンが意味不明。トーマスが極悪人なのかそうでもないのか、超中途半端な感じなのです。エンドロールに流れる音楽もいけません。なぜユーロビートなのでしょうか。この点からもわかるように、本作がはっきり言って駄作となっているのは、あなた様のせいではありません。演出に敗因があります。喰うか喰われるかのビジネスの非情さを描きたかったのでしょうが、全く描ききれていません。そして、プロットを分かりにくくしている脚本も、また問題です。

お願いです。ハリウッドのオファーを受けてください。世界中のファンがそれを望んでいるはずです。あなた様のお姿をロードショー劇場の大画面でまた観れる日を、心待ちにしています。

作品の内容(1.0)+マッツ・ボーナス(0.5)=★1.5
なお、マッツ・ボーナスとは、あなた様が長い足で走るお姿が観れたこと、そしてカッコよくビジネス・スーツを着こなしているお姿が観れたことの評価加算分です(「アフター・ウェディング」でのスーツ姿は、役柄上いかにも借り物のスーツを着たという感じでしたが)。
悲しみが乾くまで
2007 アメリカ 洋画 ドラマ ラブロマンス
作品のイメージ:ほのぼの、切ない
出演:ハル・ベリー、ベニチオ・デル・トロ、デヴィッド・ドゥカブニー、アリソン・ローマン

デンマークの鬼才スサンネ・ビア監督が、ハリウッド進出を果たした作品。オードリー(ハル・ベリー)は、夫と二人の子供たちと幸せな日々を送っていた。ある日、夫は人助けをしようとして事件に巻き込まれ、帰らぬ人となる。夫の葬儀の日にオードリーは夫の幼馴染で親友のジェリー(ベニチオ・デル・トロ)の存在を思い出し、自分の弟に彼に連絡してくれるように頼む。かつて敏腕弁護士だったジェリーは、今はドラッグに溺れるジャンキー。そんなジェリーに対して、オードリーは一緒に暮らさないかと持ちかけるのだが・・。

スサンネ・ビア監督の作品は、「しあわせな孤独」「ある愛の風景」「アフター・ウェディング」と鑑賞し本作で四作目の鑑賞となるが、共通した特徴がある。目や口をクローズアップすることによって、人物の心の機微を繊細に捉えているという点。本作においては、演出に専念したビア監督。彼女の入念な心象描写は、これまでの作品にさらに磨きがかかったものと言えよう。ストーリーだけを考えると、夫を亡くした心の隙間をジェリーの存在で埋めようとするオードリーの身勝手さが気になるところではある。

そもそも、ビア監督の作品のストーリー自体は、首を傾げたくなるところが多い(「アフター・ウェディング」のラストもそうでした)。しかし、ビア監督の作品はストーリーに焦点を当てて鑑賞するものではなく、「動きのあるドキュメンタリー」として鑑賞するものなのだと思う。喪失感や悲しみから立ち直り再生へと向かうオードリーの雑草のような姿が、いろんな角度から撮られている。ハル自身も、主人公の女性の気持ちを多様なかたちで表現するように工夫したのだとか。オードリーがジェリーに、「あなたがどのように私の助けになるかは、わからない。でも、とにかく助けてほしい。今は眠りたい」と語る表情は、ハルの迫真の演技とビア監督の精巧な演出の賜物。

もう一つの共通点は、悲しみの中にも希望が必ず描かれていること。絶望の後に再生への一筋の光が差し込んでいるところは、本作も例外ではない。ジェリーの薬物依存症の克服とオードリーの悲しみからの回復が、”Accept the Good”(善を受け入れる)というフレーズで象徴されている。二人が生きることに少しずつ希望を見出していくところで流れが収束するかたちは、「ある愛の風景」の構図とほぼ同じ。しかし、他の作品においては、男女四人の人生がある一つの事件によって狂っていくというパターンであるのに対して、本作ではオードリーとジェリーの二人が完全主体に。ジェリーのドラッグによる現実逃避、禁断症状の苦痛、そして克服へのプロセスを、オードリーの悲しみからの再生への道とダブらせるという新しいパターンが、取り入れられている。

人間が絶望から再生へ向かうという普遍的なテーマを扱いながら、映像と構図に拘ったかたちで人物の心象をこれほど繊細に描けるのは、ビア監督の他にいないのではないだろうか。ありきたりなラブ・ロマンスに持っていっていないところも、評価できる。相変わらず派手さはないしプロットに意外性もないが、「喪失」と「再生」というテーマが骨太な感じで作品に埋め込まれていて、二大俳優の円熟した演技を通じて鮮やかな光を放っているような感じ。「人は独りでは生きていけない。時には誰かを必要とし誰かに寄りかかりながら立ち直るものなのだ」という飾り気のないメッセージが、ビア監督の独特のカラーでしっかりと伝わってきた。ハリウッドでビア監督の力量を証明する作品となったのでは(次回作が楽しみです。ぜひまたハリウッドでお願いします)。

特典映像として、未公開シーンがふんだんに収録されている。ビア監督が、時間を惜しんで主役の二人をカメラで追った証し。その中に、オードリーがジェリーに「あなたが車の中の現金を盗んだと疑っていたの。ごめんなさい。これは、お詫びのしるしよ」といって手作りのものをプレゼントするシーンがあるが、これは本篇に含めても良いような気がする。オードリーが心の鎧を解くモチーフにもなるので。★3.6
同窓会
2008 日本 邦画 ドラマ
作品のイメージ:ほのぼの
出演:宅間孝行、永作博美、鈴木砂羽、中村獅童

「大切なものを取り戻す、心すっきり自分リセット・ムービー」という宣伝文句だが、そこまで期待しない方がよい作品。軽く楽しめるかもしれないが、映画の出来自体はアノソノな感じ。克之(宅間孝行/高校時代:兼子舜/通称は「かっつ」)と雪(永作博美/高校時代:尾高杏奈/通称は「ゆき」)は初恋を実らせて結婚したのだったが、映画プロデューサーである克之は若い女優と不倫に走る。そして、一時的な感情により、雪と離婚することに。しかし、新作のロケの手配で地元長崎へと帰郷した克之に、高校時代の初恋の思い出が甦る。そんな中、克之は、雪の高校時代からの親友えり(鈴木砂羽/通称は「ひめ」)からあることを聞かされ・・。

冒頭に「勘違いは、人生最高の悲劇でもあり、喜劇でもある」という格言みたいな言葉が語られるのだが、このドラマは二つの勘違いから話が発展していく。一つ目の勘違いは、中盤以前に観客は気付くが、克之だけがずっと気付かないでいるというもの。観ている側としては、「一瞬勘違いしても、それはすぐに単純な誤解だと気付くのでは?」と、この展開にちょっとイラツキを感じてしまった。克之と雪のコミュニケーションが断たれている状態で、「ひめ」の説明不足で誤解が生じてしまうんだけど。それに、この勘違いだったら、ハッピー・エンドに持っていくしかないということもわかってしまうし。二つ目の勘違いは、観客も全く気付かないようなオチ。これは、最近よく使われるオチのような気がする。そう言えば、「おくりびと」のオープニングも、これ系だった。

長崎の島原が舞台となっていて、特に前半はその土地での青春時代の思い出が現在にフラッシュバックされるかたちになっている。この思い出のシーンの九州弁が、かなり聞き取りにくい。そのせいか、前半は少しノレないというか、入って行きづらかった。後半になり、九州弁も味があるなぁ・・という感じで慣れてきたけど。良かった点を挙げれば、永作博美のウェディング・ドレス姿が見れたこと(かわいいですね〜)、万年筆のエピソードにほっこりさせられたこと、それにこういった同窓会なら参加してもよいなぁ、と思ったことの三点。

そもそも、本作を鑑賞したのは、「同窓会」というタイトルに惹かれたから。最近同窓会にあまり積極的に参加していないということもあり、同窓会って本当に楽しいものなのか・・なんて思ってしまっている。個人的にあまり過去を振り返るタイプじゃないし、同窓会に参加しても、なんだか近況報告会みたいになってしまうことが多い。「今何しているの?」とか「ご家族は?」とか聞かれ・・。仕事の話は退屈だし、家族の話は白けるし。同じことを言うのも疲れ、なんならテープに録音でもしておいて聞かれるたびにそれを流そうかな、とか考えたりとかして。でも、この作品を観て、久しぶりに同窓会に顔を出してみようかなという気持ちになった。これはかなりの収穫かも(作品の同窓会のシーンは、短いものです)。

青春映画がお好みの方は、前半も楽しめるかもしれない。しかし、冒頭に格言的なことをわざわざ出すほど深いドラマじゃない。それに、全体的に少し安っぽいところが気になったということもあり、★2.3(すべてがうまくいくハッピー・エンドなので、お気楽に観れますが)。ちなみに、監督のサタケミキオ=宅間孝行だということは、観た後に知った。
フレッシュ・デリ
2003 デンマーク 洋画 ドラマ
作品のイメージ:笑える、ほのぼの、切ない
出演:ニコライ・リー・カース、マッツ・ミケルセン、リーネ・クルーセ、ボディル・ヨルゲンセン

マッツ・ミケルセン目当てで鑑賞したものの、ファンの心境としては微妙な作品。本作では、ネチネチした性格で汗かきの嫌われ者役を演じているマッツ。「007 カジノ・ロワイヤル」のル・シッフル役を思い出すと、あまりの違いに圧倒されたというか、度肝を抜かれたというか・・(本作の方が007より古いのですが、先に007を観ているもので)。しかし、「デンマークで最もセクシーな男」に選ばれた後、敢えてこの役を演じた彼の役者魂に拍手を送りたい(それも、わざわざ頭の前頭部を剃って半ハゲにして・・トホホ)。まぁ、ルックスをかなぐり捨てて演技力で勝負をかけたマッツの意気込みは素晴らしい・・ということで満足することに。

マッツ・ファンとしての感想はさておき、内容は結構おもしろかった。「ブラック・コメディー風の残酷ホラー」と日本版予告編で紹介されているが、全くホラーじゃない。また、グロい系でもない(私はもともとスプラッターものとかはダメなのですが、本作は全然OKでした)。観た後なぜか爽快感があり、「ブラック・コメディー風のヒューマン・ドラマ」といった感じ。子供の頃から嫌われ者のスヴェン(マッツ・ミケルセン)とヤク中のビャン(ニコライ・リー・カース)は、働いていた肉屋を辞めて二人で独立する。しかし、オープンした店は、閑古鳥が鳴いている状態。そんな中、スヴェンは誤って人を冷凍庫に閉じ込めて凍死させてしまう。スヴェンはパニックに陥り、証拠隠滅のためにその人肉でマリネをつくる。そして、そのマリネをお客さんに売ったところ、店は大繁盛してしまうといったストーリー。

普通こんなストーリーを聞いたらホラーかスプラッターものかと思うが、くどいようだけどブラック・ユーモアがスパイスのように効いたヒューマン・ドラマ。それに、スヴェンが恐ろしい殺人鬼ではなく、なんだかかわいく愛おしく思えてしまうから不思議(ファンの欲目ではありませんぬ)。英題は、“The Green Butchers”(緑の肉屋)。ラストのオチも、観客をほのぼのとした気分にさせてくれる。人間不信で、奥さんにも愛想を尽かされ、人に嫌われてばかりのスヴェンは自分がつくったマリネでお客さんが喜んでくれたことで、目を輝かせて喜ぶ・・スヴェンの笑顔が切ない音楽とマッチして、観ている方は泣き笑いの境地に。スヴェンがだんだんエスカレートしていく様子も、クスッと笑える。寓話的なセンスも加わり、スヴェンと他の登場人物に愛着が湧いてくるような感覚が。

スヴェンが「汗っかき」と何度も罵られるのだが、デンマークでは汗かきは嫌われ者の象徴なのかしら・・と思ってしまった(そう言えば、マッツの顔が常にテカってました)。海岸で遊ぶシーンでは、ビーチ・ボールを抱えて猫背にしてわざと自分の肉体美を隠しているマッツ(と、どうしても、マッツ・ネタになってしまって恐縮です)。ビャンとビャンの双子の弟(アイギル)を演じるニコライ・リー・カースは、「しあわせな孤独」「ある愛の風景」にも出演しているデンマーク映画では御馴染の顔。スヴェン、ビャン、アイギルの三人の男性に、墓場で働いている女性アストレッドが加わり、奇妙な人間模様が展開される。アストレッド役の女優さんも、エキセントリックな独特の雰囲気を出している。

個人的にはこういった作風は嫌いではないし、作品のレベルは高いと思う。しかし、中にはこの感覚についていけない方もおられるかもしれないし、好みが分かれるものかも(人肉を食べても、ほのぼのと終わってしまうの〜?!という方には、無理です)。という訳で、★3.4
おくりびと
2008 日本 邦画 ドラマ
作品のイメージ:感動、泣ける、笑える、ほのぼの、ためになる
出演:本木雅弘、広末涼子、笹野高史、余貴美子、山崎努

第 32回モントリオール世界映画祭でグランプリを受賞し、第81回アカデミー賞外国語映画賞でオスカーを受賞したことにより、にわかに注目を浴びている作品。プロのチェロ奏者としてオーケストラに所属していた小林大悟(本木雅弘)は、ある日突然楽団が解散となり、妻(広末涼子)と共に田舎の山形へ帰ることに。仕事を探している大悟は「旅のお手伝い」という新聞の求人欄に惹かれ、面接へ。その会社に即採用となるのだが、業務内容とはなんと納棺師の仕事だったのだ。

まず、納棺師という仕事についてあまり知らなかったのだが、どういう仕事なのか勉強になった。ただ遺体を棺に移すだけではなく、亡くなった人や遺族に心配りをしながら、納棺に際してのいろんな儀式を執り行うといった仕事。葬儀屋から受注があって、棺を持って亡くなった人の家に赴く。遺体の肌が見えないように着せかえたり、体を拭いたり、お化粧を施したり・・。仕事の内容を聞いただけでは一般的に偏見を持つ人が多いが、その仕事を目の当たりにすると、「亡くなった人をあの世へ安らかに旅立たせる」誇るべき、そして感謝されるべき仕事であることを、誰もが自然と納得する。それは、亡くなった人の遺族や大悟の妻という目線で語られ、そして観客もそれに共感するといった運びになっている。

笑いあり涙ありといったドラマ展開であるが、特に後半については泣けるシーンが多い(ということで、久々で劇場で泣いてしまいました)。いちばん涙が止まらなかったのは、銭湯のオバチャン(吉行和子)が亡くなり、火葬するシーン。火葬場職員(笹野高史)が銭湯のオバチャンのことをしみじみと語るのだが、笹野高史の味のある語りで涙が止め処なく溢れた。「死は門。だからまた会いましょう」という言葉。死ぬということは終わりではなく、次の世界へ行くために通る門だと(このオジチャンもまた「おくりびと」ということなのですね)。

納棺会社社長役の山崎努やその会社のアシスタントの余貴美子による脇も渋い。山崎努の社長の「生と死」への考え方が、彼の重みのあるセリフに隠されている。まさに大悟の父親的存在。余貴美子には、いつものアンニュイな感じが漂っている。この二人の存在が、大悟に「図太く生きる」ことについて教えてくれているかのよう。山崎努とモッくんの仕事をする手際の良さと優雅さにはビックリ!おそらく相当訓練したのではないかと思われ(まるで、茶道の御点前のよう)。広末涼子が「夫の仕事は納棺師なんです」というセリフをキッパリと言う表情・・これもかなりインパクトがある。それまで夫の仕事に反対だった妻が、夫の仕事を誇りに思うようになる気持ちが見てとれる。余貴美子の「自分が死んだときには、この人に納棺してもらいたいと思った」という言葉も心に響き、そう遠くはない将来に両親を「おくる」こと、そしていつかは自分自身も誰かに「おくられる」ことをなんとなく想像させられた。

幕の開き方も、とても気に入った。亡くなった人や遺族への配慮を忘れない「おくりびと」の仕事が、端的かつコミカルに紹介しているといった感じ。意表をついたオチで観客の心をしっかりとつかむオープニングとなっている。音楽は、久石譲が担当。チェロ・アンサンブルが劇中の随所に流れ、この調べが絶妙に作品のトーンと合っている。惜しいのが、ラストの脚本。大悟がある人の納棺をすることになるのだが、仕事をこなしながら自分の感情を抑えられずに泣き崩れる。確かに、観客はここでもらい泣きさせられる。だが、大悟は涙を一筋流しながらも、表情は変えずに淡々と納棺師としての仕事を執り行う・・といった脚本にした方が、大悟が一人前のプロになったということ、そして大悟の死者への想い、を逆に際立たせたのではないだろうか。あぁ、そんな脚本だったら、邦画としては初めての★★★★★を献上したのに。そこだけが実に惜しい・・ということで、★4.4。
ジェリーフィッシュ
2007 イスラエル, フランス 洋画 ドラマ
作品のイメージ:ほのぼの、切ない、萌え、ためになる
出演:サラ・アドラー、ニコール・レイドマン、ノア・クノラー、ゲラ・サンドラー

美しくも哀しい詩のような作品。初見では、それこそクラゲ(jellyfish)のようにフワフワしていて捉えどころがない作品だと思った。しかし、監督のインタヴューやメイキングを見てから再度鑑賞したところ、作品の観方が変わった。新しい映画鑑賞のしかたを教えてもらったような気がする。

美しい海辺の町テルアビブを舞台に、三人の女性の日常が淡々と撮られている。結婚式場で働く粗忽なバティアは、海辺で浮輪をつけた何も話さない少女に出会う。また、ケレンは結婚式を挙げたばかりだったが、いろんな災難に遭い不平不満ばかりを言っている。そして、フィリピン人のジョイは、息子をフィリピンに残したままイスラエルにやって来て、ホームヘルパーの仕事に就いている。この三人の話はそれぞれ独立したもので、特に接点はない。しかし、大切な相手に自分の気持ちをうまく伝えることができないという共通点がある。何かを介して相手とコミュニケーションをとっていく・・そんな三人の不器用さが現実と非現実とが交錯するようなかたちで描かれている。

イスラエル大使館が後援しているということもあり、イスラエルの社会背景がしっかりと盛り込まれているところも見逃せない。シリア人に対する反感、多種多様な言語と文化の混合、フィリピンなどから出稼ぎに来る外国人労働者の急増などなど。また、映像については、無駄なものを削ぎ落として必要なものだけを被写体にすることを心がけたのだとか。なるほど、繊細なカメラワークが活きて、被写体だけに焦点が絞られている。色彩へのこだわりも、活きている。現実と幻想の世界を行き来する霞がかった雰囲気を醸し出すために、登場人物の演技のエネルギーをわざと抑えるような工夫も凝らしてある。そこまで計算された演出だったとは・・。詩的曖昧さという淡い光で、作品全体を照らしているよう。

ケレンとケレンの夫マイケルがホテルで出会う女性が遺書を残して自らの命を絶つのだが、その遺書がまるで作品のテーマの中核のようになっている。「瓶の中の船は沈まない・・船底に漂うクラゲがただ揺れるだけ・・」人は過去を受け入れることにより、自由に生きることができるのだろうか?「みんな何かの第二世代よ」というセリフが出てくるが、人は過去に縛られること、過去に押し流されること、過去から現在・未来に導かれるということを超越できるのか否か・・と問いかけられているような感じ。果たして、瓶の中の船は大海原へと漕ぎ出せるのか。

浮輪の女の子が、天使のようにかわいい。そう言えば、インタヴューで「将来は女優さんになりたいの?」と聞かれて、首を横に振って「もう女優だもん」と言っていた(・・ごもっともです)。「萌え」「切ない」「ほのぼの」「ためになる」のタグを一緒に付ける作品は、そう多くないのではないか。2007年カンヌ国際映画祭で賞をとった云々は抜きにして、心にぼんやりと明かりを灯してくれるような異色作品に出遭えた。★3.3
NOISE

NOISE

評価:star3

作品のイメージ:笑えるスゴイ
テー マが興味深い作品。都会の騒音が気になってしようがない男デイヴィッド(ティム・ロビンス)は、車の警報装置などを破壊して回っていた。警察に逮捕されて も、奥さんに呆れられても破壊活動を止めず、ついには・・。気持ちは、わからないではない。騒音って気になり出したら、どうしようもないくらい気になる。 気にならないときは、全然気にならないけど。些細な音でも気になるときは、気になるもの。なので、自分の生活から騒音を一掃するなんて無理じゃないのか なぁ・・なんて思ってしまった。完全な静寂なんてあり得ないし。騒音なんてお互い様、というところもある。奥さんが弾くチェロの音も、ご近所の迷惑になっ ているかもしれない。まして、マンハッタンに住んでいれば、逃れようがない気がする。イエロー・キャブのクラクションの音が始終鳴り響いているんだから。

どちらかというと騒音に悩まされる男のobsession(強迫)について描いたサイコものかと思ったら、コメディ・タッチの社会派ドラマであった。サイ コものだったらおもしろかったのに。普通の人間なら、騒音がうるさいと思っても「ま、いいか」と思ったり、「集中しなきゃいけない仕事は後でしよう」と 思ったり、我慢したり諦めたりするんだけど、デイヴィッドって自分を誤魔化せない人間なんだと思う。だから、自分のこだわることを徹底的に追及してしまう んじゃないかと。自分を「救世主」と思い騒音を排除することにハマっていく狂気には、もの凄いものを感じた。ぜひ、精神病理学的見地から描いてほしかっ た。

拘置所の中でやっと安眠できた、というところは皮肉が利いている。でも、その後署名活動をしたりする辺りから、急に退屈になった。「音も暴力の一つ」とい うところは共感できたけど、デイヴィッドが住民の代表のようにヒロイックになってしまったところで、せっかくのテーマのおもしろさが死んでしまったような 気が。後半は痛快ではあるんだけど、うまく納まってしまっている展開によって、少し興醒めな感じがある。強烈なテーマなんだから、強烈な展開を貫かない と。「騒音だけ消しても、社会悪は他にたくさんありますよ」と意地悪くツッコミを入れたくなってしまった。

作品自体にも騒音が盛り込まれているので、結構うるさい。ボリュームを思わず落として観たほど。劇場未公開作品だけど、劇場で観ていたらさぞかし騒々し かっただろうな・・と思う。それにしても、テーマが斬新、キャストも豪華であるだけに、惜しい気がしてならない。テーマはシリアスで、タッチはコミカル。 描き方が、そもそも難しいんだと思う。いっそのこと、「人間なんて何かを排除すれば、別のことが気になってしまう生きものなんだ」という終わり方をしてく れたらよかったのに(そうすれば社会派ドラマじゃなくなっちゃいますけど)。でも、そう言えば、「そういうシニカルな意味が込められているのかな」と思わ せるシーンはあるにはあったかも。★2.6
ザ・ダークウォーター ビギニング・オブ・パニック
2006 カナダ 洋画 ミステリー・サスペンス
出演:エマ・コールフィールド、デヴィッド・オース、トレイシー・ウォーターハウス、ダリル・シェトルワース

怖くもなかったし、ドキドキ・ハラハラ感もなかった作品。遺産相続によって莫大な資産を受け継いだケイトが、家族とともに遺産として残された豪邸に引っ越してくる。そして、そこで亡くなった父の姿や残忍な殺人の映像を見るようになる。心霊現象なのか、ケイトの妄想なのか、夢なのか・・?原題は、 “Deadly Inheritance”(「恐怖の遺産相続」みたいな感じ)。なのに、なぜこの邦題・・?

なんだか辻褄の合わないところだらけだし、全体として浅い仕上がりになっている。後半はなんとか観れるが、前半はかなり退屈。何度も途中下車しようと思ったけど、観た以上一応犯人が誰か知りたいという理由だけで、がんばって最後まで鑑賞。ラストで犯人がわかるんだけど、確かに意外は意外。でも、その意外性に驚くというより、「えー、ここまで引っ張っておいて、それはないんじゃないの?」と思ってしまった。「ホワット・ライズ・ビニース」のパクリのような部分もあり、ストーリーも斬新とは言い難い。いろんな人を怪しく見せかけて、結局犯人当てのミステリーにしているだけといった感じ。

サイキックな要素を取り入れるのであれば、もっと掘り下げようはあったと思う(ネタバレ自粛のため具体的には書けませんが)。母親からの超常的能力の遺伝も「恐怖の遺産相続」の一部・・と観客に感じさせる脚色を加えれば、結構おもしろかったかもしれない。そして、その能力は娘へと・・とかいくらでもサイコな方面で膨らませていけるのに。変にミステリーっぽくして、観客に犯人当てをさせようとしているから、中途半端になってしまっている。ミステリーならミステリーで、もっとヒネリがほしいところ。ホラーならホラーで、もっと怖いべき。サイコ・サスペンスならサイコ・サスペンスで、もっと深いべき。

莫大な遺産を相続しても良いことばかりじゃないのね・・ということくらいしか、他に感想と言える感想はない。消化不良な感じが残り、犯人は誰なのかアレコレ考えて損をしたような気が。比較的新しい作品だけど、あまり人気がない理由の方が氷解した。★1.3

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