あず沙の映画レビュー・ノート

しばらくお休みしておりましたが、そろそろ再開いたしました
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シャイニング
1980  イギリス  洋画  ホラー  ミステリー・サスペンス  
作品のイメージ:ドキドキ・ハラハラ、怖い
出演:ジャック・ニコルソン、シェリー・デューバル、ダニー・ロイド、スキャットマン・クローザース

スティーヴン・キング原作のホラー小説をスタンリー・キューブリック監督が映画化した作品。ジャック・トランス(ジャック・ニコルソン)は、妻のウェンディ(シェリー・デュヴァル)と息子のダニー(ダニー・ロイド)を連れて、大自然の中に建てられたオーヴァー・ルック・ホテルにやってきた。ホテルの管理人としてホテルに住み込み、自分の小説を仕上げるという目的だった。ホテルが閉鎖される間は雪で外界から遮断され、三人だけの生活となってしまう。ジャックの前任者の管理人は、この生活のあまりの孤独のために気が狂い妻と二人の娘を斧で殺し、自分も自殺したという惨劇を、ジャックはホテルの支配人から聞かされていた。ホテルが閉鎖される日、料理人ハロランからダニーは「シャイニング」という幻視超能力の話を聞き、「絶対に237号室には近づくな」と言われる。時折、ダニーの目の前で幻想ともつかぬ恐ろしい光景が過ぎる。それはエレベーターの扉から滝のように流れ出る夥しい量の血と、その前に立ちつくす双児の少女の不気味な姿だった・・。

 

キューブリック監督は、カメラの使い方で恐怖と狂気を見事に演出している。全篇ブレを排除し「静」の恐怖を溢れさせた映像は、溜め息が出るほど。背景に選ぶのはホテル内のシンメトリー。さらにカメラを直線的に引き、あるいは寄っていくことで奥行き間を出す。雪に閉ざされたホテルの閉塞感から醸し出される異様な雰囲気は、見る者を迷宮に迷い込んだかのような錯覚に陥らせる。また、全篇に流れる音楽も恐怖感を巧みに高めている。但し、幻想・妄想・現実・深層心理が巧みに交錯し、キューブリック的難解さは健在といった感じ。現実の世界と非現実の世界の境界が描かれているのだと思う。ジャックの行動だけが事実で、あとはジャックとダニーの心象としてしか異常現象が描かれていないため、現実なのか非現実なのかが曖昧になっている(監督が意図的に曖昧にしているのでしょう)。ウェンディだけが非現実の世界が最後の最後まで見えないというところから、ウェンディは○○にとって取り込みにくい存在だったということではないだろうか。

 

ジャック・ニコルソンの怪演については評判通り、映画史に残ると言ってもいいかもしれない。タイプライターを打つ音を背景に、次第に狂気に支配されていく男を何かに取り憑かれたような感じで演じている。小説と仕事へのプレッシャーからか、ジャックは徐々に発狂の度合いを強めていく。“All work and no play makes Jack a dull boy”(仕事ばかりで遊ばないジャックは今に気が狂う)のあの有名なシーンでは、あまりの怖さに鳥肌が立ってしまった。ウェンディが恐怖に怯える様子も鬼気迫る演技で、身震いがした。ジャック・ニコルソンは、○○に取り憑かれて狂っていく、そしてウェンディにとっては夫であるジャックが恐怖の対象であり、ダニーは幻視超能力のメッセージに脅かされ続ける。○○は確実に三人の世界を壊し、また三人のつながりを絶っていく・・。なんと恐ろしいのだろう・・。

 

怖い映画を5本挙げるとすれば、間違いなくその中に入るであろう本作。何が怖いかと言われて、具体的な幽霊であったり誰かであったりするのではなく、映画の「空気」そのものに背筋がゾクゾクするのである。ホラー映画の金字塔であるヒッチコックの「サイコ」に引けをとらない。その点において、映画を制作したキューブリックの凄さに敬服する。また、ホテルもインディアンの墓地を潰して建てたという設定も意味深。呪われたホテルに棲む悪霊たちは、ジャックの仕事のプレッシャーからくる不安定な心に付け入ってきた・・と考えるのは考え過ぎだろうか。★4.5

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