あず沙の映画レビュー・ノート

しばらくお休みしておりましたが、そろそろ再開いたしました
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クロエ 無垢な娼婦
1996  フランス  ベルギー  洋画  エロス  
作品のイメージ:切ない
出演:マリオン・コティヤール、アンナ・カリーナ、ジャン=クロード・アドラン、ノーツァ・クーアドラ

見ていて痛々しいくらい無垢というか純真な16歳の女の子が堕落していくお話。失恋した上に母親と折り合いが悪く、家出をしたクロエ(マリオン・コティヤール)。路頭に迷う彼女に手を差し伸べたのは、危険な香りのする年上の男だった。彼の優しさに惹かれていくクロエは、彼にすっかり夢中に。やがて、男は自分の借金を返すためにクロエに体を売ることを強要する。愛する男を助けるために、自らの体を犠牲にすることを選ぶクロエ。無垢な少女は、男たちの欲望にまみれていくのだった・・。

 

マリオン・コティヤールは相変わらず魅力的なのだが、さすがに16歳の設定には無理があるような・・。娼婦に成り下がって行く過程でのクロエの顔つきが、どんどん変貌していくのが印象的。初めははじけるような笑顔を見せていた彼女だったが、だんだん凍りついたような顔つきになり、何をすることも厭わなくなっていく姿が切ない。しかし、ある日「私は心も体も汚れている」といってシャワーでゴシゴシ体を洗ったり、鏡の中の自分の姿を見て「これが娼婦のワタシ」と茫然としたり・・。彼女の感覚は愛する男のために麻痺しながらも、堕落していく自分を自覚しては、「愛のため」と自分を必死でごまかしていたのだった。

 

人を疑うことを知らないクロエは、愛する人に騙され信頼していた友人にも裏切られるのだが、唯一クロエのことを本当に想ってくれていている人がいて、救われた思いがする。絶望的なストーリーかと思いきや、少し救われる部分はあったのと、エンディングに流れる曲がクロエの未来に明るい光を灯してくれているかのよう。但し、全体のストーリーは、陳腐な感じがする。若さ故の無垢、無垢故の浅はかさ、そして人を疑わない心・・そんな心が踏み躙られた彼女は・・といった感じの作品は他にも多々ありそうな・・。

 

但し、陳腐なストーリーの中にも、マリオンの魅力が溢れている。相変わらず、体当たりの演技は大したもの。そして、今回は脇役であるアンナ・カリーナの存在感もたっぷり。アンナが演じるカティアは、なぜそんなにクロエにこだわるのか・・?カティアもクロエを食いものにする男たちとつながりがあるのか・・?ゴダールの作品に出演しコケティッシュな魅力でファンの心をつかんだ彼女だったが、本作ではクロエに対して成熟した女性の象徴という存在だ。大人の女性と大人に未だ成りきっていない女性が、まるで本当の母娘のようにしっかりと心でつながる・・となんとも普通の作品なら平凡な持って行き様になってしまうところが、本作ではそうはなっていない。マリオンとアンナの演技の息がピッタリで、ある意味新鮮味を見せてくれている。二大女優の腕前が、光っているところであろう。

 

内容的には官能的で過激ということになるのだろうが、個人的には二人の女優の魅力を堪能したのと、傷ついても希望を捨てない女性の強さを痛感した。本作は、当然のように日本未公開。マリオン・コティヤールと言えば「エディット・ピアフ 愛の賛歌」が代表作のように語られるが、「美しい妹」など彼女主演の秀逸な作品があることが、もっと浸透すればよいと思う。本作についても、あまりブログで感想を書いている方がおられないことが残念。やはり「エロス」というカテゴライズだけをして官能性を求める人たちだけをターゲットにしているマーケティングが、間違っているような・・。★3.2

ことの終わり
1999  イギリス  アメリカ  洋画  ラブロマンス  ドラマ  
作品のイメージ:切ない
出演:レイフ・ファインズ、ジュリアン・ムーア、スティーブン・レイ、イアン・ハート、ジェイソン・アイザックス

不倫のお話かと思いきや、意外にも宗教が絡んでくる作品であった。1946年のロンドン。モーリス(レイフ・ファインズ)は、旧友のヘンリー(スティーヴン・レイ)から、妻のサラ(ジュリアン・ムーア)が浮気しているのではないかとの相談を受ける。サラとモーリスは戦時中不倫の関係にあり、嫉妬を感じたモーリスはサラの素行調査を探偵に依頼する。二年前、二人の居た建物が爆撃を受け、気絶していたモーリスが目を覚ますと、サラは彼から去って行ったのだった。サラを未だに忘れられないモーリスは、探偵が入手した日記を読んで、意外な真相を知ることになる・・。

 

おそらく私自身が無神論者故に、ヒロインへの感情移入が難しかったのだと思う。しかし、自分が本当に愛する人のために祈り、自分の命をも引き換えにするというサラの美しい心とジュリアン・ムーアの外見的な美しさがマッチして、作品自体から芳しい香りが放たれているような印象を受けた。モーリスについては、別れた女性にこだわり素行調査まで依頼して人の日記を読んじゃうなんて、あまりにも粘着気質なのでは・・。ジュリアン・ムーアと対照的にレイフ・ファインズは最初はミスキャストのような気がしたが、全篇を通して観た後は案外(?)合っているという感じも。

 

ある奇跡が起こることによって、突然信仰心というのは生まれるものなのだろうか・・?キリスト教の教えであるところの、自分を捧げるかわりに愛する人を救う「自己犠牲」の精神が、モーリスへの愛によって生まれたのか、あるいは奇跡によって生まれたのか・・?いずれにしても、純愛から生まれた信仰心ということになるのだろうが、この純愛と前半の官能的すぎる(というか露骨な)性描写シーンとがバランスがとれていないような。前半の部分をもう少し抑え気味にして、表情や目の動きなどから二人の愛を表現して欲しかった。

 

他の作品のレビューでも書いている通り、男女の愛を考えた場合、男性は別れた女性のことをいつまでも忘れられないというかこだわってしまうけど、女性の場合はあることがきっかけで別の方向に転換できるものなんだなぁ〜、なんていつも通りの感想を持ってしまった。最近観た邦画の「失楽園」にも言えることだが、結婚できない男女の愛の終わりは、ある一つの「昇華」でしかないと思う。「失楽園」の場合は衝撃的なかたちでの心中、そして本作では女性側の宗教心の目覚めということになるのだろうか。

 

家族愛と恋愛は違う。ヘンリーはサラを家族として愛し、モーリスはサラを女性として愛した。だから、三人で暮らすという奇妙な関係が成立してしまったのであろう。そう考えると、サラは二人の男性から別のかたちで愛されて、恵まれた女性と言えるのかも。それは、彼女なりの信念を貫いたからであり、彼女なりの信仰心を持ち続けたからであり、彼女の愛が単なる不倫で終わっていないからではないか。


このドラマが他の恋愛ドラマと一味違っているのは、モーリスとサラの両方からの視点で描かれていることと、現在と過去が交錯するかたちで描かれていることで、恋愛ドラマに加えてミステリーの要素も加えられているところ。原作の名作小説「情事の終わり」をニール・ジョーダン監督なりに優美かつ上品に映画化している本作は、恋の衝動を止めることのできない二人の切なさが心に沁みわたるような作品に仕上がっている。★3.4

フォロウィング
1998 イギリス 洋画 ミステリー・サスペンス ドラマ
作品のイメージ:ドキドキ・ハラハラ、怖い、おしゃれ、スゴイ
出演:ジェレミー・セオボルド、アレックス・ハウ、ルーシー・ラッセル、ジョン・ノーラン、ディック・ブラッドセル

クリストファー・ノーラン監督の初監督長編作品。作家を目指していたビルには、知らない人を尾行するという奇怪な趣味があった。ある日尾行していた男に気付かれ、その男コッブと知り合いになる。コッブにも、また奇怪な趣味があった。コッブは、知らない人の家に無断で侵入してはその人のプライベートを覗き見たり、物を盗んだりしていたのだ。ビルは、そんなコッブにだんだん感化されていく。

出だしの部分はあり得ない設定ということで、ちょっと圧倒されてしまった。まず、コッブの身なりやしゃべり方から、かなり洗練された教養のある人物のように思える。とても、人の物を盗んで生計を立てているようには思えない。それに、人の物を盗んで売りさばいたところで(CDとか)、そんなにお金になるとも思えない・・とか思っていると、中盤から一気に引き込まれた。ビルは尾行していたある女性と親しい関係になり、そしてコッブの存在が二人の関係に絡んでくる。三人の関係を観客に人物の行動で判断させるような視覚的な描き方をしているところは、ノーラン監督の狙いなのだろう。そして、三人の関係が徐々に明らかになってくる。そう考えると、出だしの斬新さもノーラン監督の計算に入っている効果なのかもしれない。

モノクロであることや70分の短いドラマであることは、限られた予算と限られた時間という制限があったから、とノーラン監督はインタヴューで語っている。監督を含むスタッフとキャストは当時別の仕事を持っていたため、撮影にもあまり時間を割けなかったらしい。毎週土曜日に集まって、20数週かけて撮り終えたとか。時間軸がバラバラになった連続性の無い展開やドキュメンタリー風であることも、そういった環境から必然的に生まれたものとノーラン監督は説明しているのだが、どうも監督の「ご謙遜」のように思えてしかたがない。

本作も「メメント」同様、ボーナス・トラックにクロノジカル・シークエンス(時系列)のバージョンが収録されていて、それで復習してみた(本作については、「メメント」ほど複雑ではないので復習の必要はないかなと思ったのですが、念の為に観てみました)。すると、やはり細かなところまで巧妙に伏線が張られていることがわかった。なので、どれもノーラン監督が緻密に計算した結果の産物のように思える。モノクロであることも、ロンドンのスタイリッシュさを引き立てているし、モダン・クラシックな香りを放たせ、フィルム・ノワール的な演出にも一役買っている。

脚本もノーラン監督が自ら手がけたものであることも、嬉しい。「人は失ってはじめて、その物の真価に気付く」というコッブのセリフが意味深長。また、ビルが検察官に対して最初に発するセリフは、“The following is my explanation.”(これからしゃべることが、僕の身に起こったことです)。ここでの”following”(フォロウィング:以下)と、尾行を意味するフォロウィング、そして人に感化されるというフォロウィング、の三つの意味がタイトルになっているように思える。また、“The following is my explanation.”は、「フォロウィングという言葉でしか説明できません」という意味にもとれ、この部分は作品鑑賞後になって「なるほど」と頷けるセリフである。細部にまで意味を持たせているといった手抜きのない入念さは、ノーラン監督作品の魅力。

数限りない伏線、観客の予測を超えたいくつものどんでん返し、過去から未来へのフラッシュ・フォアードと未来から過去へのフラッシュ・バックの混和など、ノーラン監督の独創性はそれぞれの作品で活きているが、本作が「メメント」「プレステージ」など他作品の原点になっていることは間違いない。★4.2
海の上のピアニスト
1999 イタリア, アメリカ 洋画 ドラマ
作品のイメージ:切ない、スゴイ
出演:ティム・ロス、プルイット・テイラー・ヴィンス、メラニー・ティエリー、クラレンス・ウィリアムズ三世

予告編→本編→メイキングの順に観たら、だんだんダウングレードしていってフェイントをかけられたような作品(私の観方がおかしいのか?)予告編を観ると、「大西洋の上で生まれ、生涯船の上で過ごし、一度も船を下りることはなかった天才ピアニスト」とか「トルナトーレ監督が贈る壮大なスケールで描いた叙事詩」とか・・。それに、船から見上げる自由の女神が神々しいカットで撮られていたり・・。当然、期待は膨らむ。

まず、伝説のピアニスト(ティム・ロス)の名前「1900(ナインティーン・ハンドレッド)」が新世紀の幕開けにちなんで付けられたのなら、それなりの時代背景が詰まっているのかと思ってしまう。が、実際そうでもない。その時代を感じさせるものと言えば、1900が乗っていた船ヴァージニアン号が移民たちをアメリカまで運ぶために、ヨーロッパとアメリカの間を頻繁に往復していたこと、第二次大戦下酷使されたヴァージニアン号の運命、そして、ジャズがこれから台頭していくことを背景にしているのか、1900とジャズ・ピアニスト(自称「ジャズの発明者」)のピアノ演奏対決くらい(私が何か見落としているのでしょうか?)

1900とジャズ・ピアニストの対決は、なかなか見応えはある。モリコーネの音楽だけに、音楽は文句なく良い。なので、「奇跡のシンフォニー」のように、現実にはあり得ないツッコミどころ満載のミュージック・クリップとして楽しむのであればよいのかもしれない。しかし、この対決で、1900の音楽よりもジャズ・ピアニストの音楽の方が秀でている・・と思ったのは私だけだろうか。なんか、ヨーロッパの音楽がジャズに勝ったって言いたいのかなぁ・・なんて思ってしまった。

1900の話は、バンド仲間であったトランペッターが回想しながら語るといった展開になっているのだが、こういう手法は陳腐になってきたという感じも。「タイタニック」に似ているし。あと、ラブ・ロマンスの要素も一応入っているのだが、中途半端な感じで終わってしまっている。

メイキングについては、監督や出演者のインタビューでもあるのかと最後まで観てしまったが、撮影現場(ピアノ演奏対決のシーン)をダラダラと撮っているだけで、無意味なものだった(メイキングを観る価値はほぼゼロです)。本篇については音楽のすばらしさを加味しても★3.0くらいなのだが、予告編と本編にギャップがありすぎで減点(▲0.3)、そしてメイキングのくだらなさにさらに減点(▲0.3)。総じて、★2.4。
タイタニック

1997 アメリカ 洋画 ラブロマンス ドラマ
作品のイメージ:感動、泣ける、ドキドキ・ハラハラ、スゴイ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレット、ビリー・ゼイン、キャシー・ベイツ、ビル・パクストン

劇場に足を運ぶこと5回、その後VHSのビデオを購入(当時はまだDVDがなかった時代なので)、そして結局DVDも購入してしまった。何度泣かされたかわからない作品。ローズ(ケイト・ウィンスレット)とジャック(レオナルド・ディカプリオ)の恋物語だけではない、生と死の極限下におかれた人たちの人間模様と人間の本性を鋭く描いた壮大なスペクタクル。音楽、視覚的効果、演出、キャスト、脚本、どの観点からも満点以上の出来。ラストで泣ける映画はたくさんあるが、本作では途中から涙が止まらなくて最後まで泣き通しだった。

地域や年齢などのさまざまな環境の違いで「笑い」の沸点には差があるらしいが、「泣ける」シーンというのは比較的共通しているという話を聞いたことがある。後半は、ほとんどウルウル状態だったが、特に涙腺を刺激されたシーンは(あくまでも個人的な観点からですが):

―ジャックが自分は後でボートに乗れないこと知りながら、ローズだけをなんとか救命ボートに乗せるシーン
―ローズが一旦は救命ボートに乗ったものの、ジャックのところに戻るため船に飛び移るシーン
―弦楽カルテットの人たちが一度解散した後、また戻ってきて自分たちの使命を全うしようとするシーン
―船の設計者が一人部屋に残って、時計の針を合わせるシーン
―夫婦がしっかりと抱き合って、最後まで一緒にいようとするシーン
―モリー(キャシー・ベイツ)が救命ボートの中で、「何故みんなまだ水の中にいる人たちを助けに行こうとしないんだ」と怒りながら訴えるシーン
―ジャックがローズに、「この船で君と巡り合えてよかった。この先何があっても諦めるな」というシーン
―死んでいるジャックにローズが何度も呼びかけるシーン
―救援のボートがやってきて、ローズが必死に笛を吹くシーン
―救命された後ローズが自分の名前を聞かれて「ローズ・ドーソン」と名乗り、自由の女神を見上げるシーン
―年老いたローズがダイアモンドを海に投げ入れるシーン
―寝室にあるローズの写真(馬に乗った写真など)が、彼女のその後の人生を物語るシーン
―最後ローズの魂が船の中へと降りて行きジャックと再会し、乗船者たち全員に祝福されるシーン

実話をもとにしたストーリーであること、紳士たちが女性や子供を優先的に救命ボートに乗せたという美談、一等船客も三等船客も同じ人間であるのに救命という段階に及んでも扱いが違ったこと、新天地を求めてアメリカに渡ったアイルランドの人たちのこと・・などなど社会的背景がしっかりとした骨組みを構成している。しかし、何より「泣ける」映画として絶賛に値する作品だと思う。今でも、セリーヌ・ディオンの”My Heart Will Go On”を聴くと涙が・・。
娼婦ベロニカ

1998 アメリカ 洋画 ドラマ ラブロマンス
作品のイメージ:カッコいい、おしゃれ、ためになる
出演:キャサリーン・マコーマック、ルーファス・シーウェル、オリバー・プラット、フレッド・ウォード

原題は”Dangerous Beauty”。別題として、“A Destiny of Her Own”や”The Honest Courtesan”というのもある。もし自分が邦題をつけるとしたら、ヒロインの名前「ヴェロニカ・フランコ」。実在した人物で、詩人としてイタリア文芸史にも名を残しているほどの才女らしい。「娼婦ベロニカ」というタイトルは、なるほどよくない。

16世紀商業都市として栄えたヴェネチア。当時「女性は男性の所有物としてしか扱われていなかった」。女性は、子供を産み育て家庭を守る、そういう「良い妻」として生きることが女性として歩むべき妥当な道とされていた。ヒロインのヴェロニカ(キャサリン・マコーマック)は自分の思いを寄せている男性マルコとは、持参金が無いのと身分違いということもあり、結婚することはできない。かと言って、年配の男性と政略結婚をするつもりもないし、修道女として生きる覚悟もない。母親の美しさを引き継いだヴェロニカは、かつての母親と同じコーティザンになる道を選ぶのだった。

コーティザンとは「高級娼婦」と訳されているが、微妙に違う。教養・知識を身に付け、当時男性しか出入りできなかった図書館や社交場にも堂々と顔を出し、男性と対等に会話をしたり、即興詩を詠んだりできる。そして、他の国の国王をもてなしたり、政界で活躍する男性の相手も務める・・いわゆる「エリート女性パートナー」のことである。

美と機知に溢れるコーティザンになったヴェロニカだったが、やがて戦争とペストがヴェネチアを襲う。そして、ヴェロニカは・・。彼女が宗教裁判で発言するセリフは、まさに抑圧された当時の女性たちの思いを代弁している。

ヴェロニカの美しさ、意思の強さ、自由への渇望を力強く打ち出したなかなかの佳作。後味もかなり良い。華やかだったヴェネチアの都を探訪できるのも、本作の魅力の一つ。美術・音楽も秀逸だが、ラストに持っていく盛り上げ方もうまい。邦題からは想像もつかない上質の歴史ドラマとして、十分に楽しめた。 ★3.6
イン・ドリームス 殺意の森

1998 アメリカ 洋画 ミステリー・サスペンス ホラー
作品のイメージ:ドキドキ・ハラハラ、怖い
出演:アネット・ベニング、エイダン・クイン、ロバート・ダウニー・Jr、スティーヴン・レイ

怖しいことを予知してしまう悪夢に悩まされるヒロインを、アネット・ベ
ニングが演じている。超常的な能力が元来備わっているということなのだ
ろうが、周囲からは精神的に病んでいると思われ精神病院に入院させられ
たりする。

繰り返し出てくる不気味な歌や廃墟となったリンゴ・ジュース工場の風
景・・現実と夢がゴチャゴチャになった感じでどうもスッキリしない。前
半は、サイコ・スリラーなのか、サスペンスなのか、ホラーなのか、全く
新しいジャンルの映画なのか掴みどころがなかった。そこが本作の良さな
のか。

後半ロバート・ダウニー・Jrが出てくるあたりからなんとなくストーリー
の全容が次第に見え始めるが、最後のオチには「そう来るか」という感じ
で、一本とられてしまった。全体的には、なんとも不思議な印象の作品。
グリム童話のような感覚も味わえる。

それにしても、「殺意の森」というこの邦題はなんとかしてほしい。「イン・
ドリームス」だけでよいのに。そーだ、この邦題が本作のイメージをミス
リードしているような気がする。
エリザベス

1998 イギリス 洋画 ドラマ 文芸・史劇
作品のイメージ:カッコいい、おしゃれ、スゴイ
出演:ケイト・ブランシェット、ジョセフ・ファインズ、ジェフリー・ラッシュ、クリストファー・エクルストン

ケイト・ブランシェットの演技に圧倒された作品。★6つくらい付けたい。
国を統治する者の重圧、一人の人間としての苦悩、そして一人の女性とし
ての恋・・直面するさまざまなことに、その芯の強さで乗り越えていくエ
リザベスをケイトが見事に演じ切っている。王位が継承される前から絶対
君主としての威厳を備えていくまでのエリザベスとその過程に、いろんな
角度からスポットを当てているといった感じ。

周りから圧力をかけられても、「自分は自分の良心の命ずるがままに行動
する」と言うエリザベスに勇気をもらった。また、ロバート卿とダンスを
しながらお互いが本音を語るシーンや、髪を切るシーンが印象的。

映像はちょっと暗めだが、豪華な衣装がこの作品に花を添えている。映像
に増して音楽がその重厚さに輪をかけているといった感はあるが、史劇と
してだけではなくドラマとしても十分に楽しめる作品だと思う。また、デ
ィテールを鑑賞すればするほど(一瞬のカットとか)、その一つ一つがエ
リザベスが最後に言うセリフの意味に通じるものがあるので、複数回観て
も飽きない。
奇跡の海

1996 デンマーク 洋画 ドラマ ラブロマンス
作品のイメージ:切ない
出演:エミリー・ワトソン、ステラン・スカルスガルド、カトリン・カートリッジ、ジャン・マルクバール

「ドッグヴィル」「マンダレイ」とは対象的に、雄大な景色が背景に描
かれたラース・フォン・トリアー監督の純愛物語。主人公ベスは、仕事中
に事故に遭い半身不随となった夫ヤンをどう愛したらよいのか、必死に神
に問い続ける。夫を死から救うため、そして夫の望みを叶えるために「神
の家」へと足繁く通うベスだったが・・。ベスのひたむきな愛、そしてそ
の「善意」からくる「妄執」の果てには・・?

スコットランドの寒村の綺麗な景色と、性描写を含めた現実描写が強烈な
コントラストを放ち、それがかえってベスの純粋さを引き立てている。傷
ついてもなお愛を貫くベス・・破壊的な愛とはこのことを言うのか。その
愚かとも言える無垢さには、残念ながら感情移入が難しかった。

また、ヤンも何故そんなことを妻に要求するのか・・?自分の欲望を満た
すため・・?それとも、妻の欲求を満たせない自虐的な思いからなのか・・?
消化不良なところは、ベスはヤンの犯した罪(弱さ)をも自分が背負った
のだと解釈して、納得することにした。とすると、プロテスタント信仰で
の「聖化(sanctification)」ということになるのか。

そう考えると、ベスのひたむきな愛は、なんとなく「ダンサー・イン・ザ・
ダーク」のヒロインの愛(この場合は子供を想う母の愛だが)とダブると
ころがある。各章ごとのインターミッションにポップな音楽が挿入されて
いるのも、ベスのそんな純真な心を象徴しているかのようにも感じられた。
恋愛小説家

1997 アメリカ 洋画 コメディ ドラマ
作品のイメージ:ほのぼの、癒される
出演:ジャック・ニコルソン、ヘレン・ハント、グレッグ・キニア、キューバ・グッディングJr.

大人の恋物語をコメディー・タッチで描いた作品。ジャック・ニコルソンとヘレン・ハントのコンビネーションが良くないせいか、あまりピンとこなかった。それぞれの演技はすばらしくても、二人の個性がうまく噛み合っていないような。また、見始めてすぐにストーリー展開が読めたので、ラストは「やっぱりね」という感じが否めない。それに、そこそこ高齢の主人公の融通の利かない性格がそんなに簡単に矯正されるとも思えない・・などなど不満な要素は多い。

原題の“As Good As It Gets”(自分としてはこれが最高)の通り、幸せは人それぞれ自分が決めるもの・・なので、どんな形であれ、人生で起こるさまざまなことや自分自身をどう受け入れて、何を大切に思うかが肝心・・といった感じで鑑賞すればよかったのか・・?

ほのぼのとした感じにはさせてくれたが、二人の俳優の個性が勝ち過ぎていて、作品全体のピントがぼけてしまった感じが勿体ない。なので、二度以上は観る気にはなれない作品。

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